[連載講座]


「女性だけのガンからからだを守る」

(第1回)日本の女性だけのガン

京都大学名誉教授
鍵谷 勤
t-kagiya@ra2.so-net.ne.jp

 

目 次

まえがき
第1章     日本の女性だけのガン患者数
 
第1節 日本の女性の良性新生物と年齢
 
第2節 アメリカの女性だけのガン患者数
 
第3節 日本の女性だけのガン患者数と年齢
第2章 都道府県の女性だけのガンによる死亡率
 
第1節 各都道府県の女性だけのガンによる死亡率
 
第2節 女性だけのガン死亡率の最も高い県と最も低い県
まとめ


まえがき

 今日、日本の女性は30万人(男女合計60万人)がガンに罹り、15万人(男女合計30万人)が死亡しています。女性は4人に1人はガンで死亡する時代です。ようやく「ガン対策基本法」が成立したのは2007年6月のことでした。この法案ができても、直ちにガンが減るわけではありません。

 乳ガン、子宮ガン、卵巣ガンなどの女性だけのガンに罹ったらどうすれば良いか?これらの女性だけのガンを予防するにはどうすれば良いか?1996年までは「成人病」と称せられていたガンや血管病などの病気を「健康なうちから予防」しようとして、生活習慣を改善することを期待して成人病の名称は「生活習慣病」と変更されました。

 ここでは、日本の女性だけのガンの患者数を調べてアメリカと比較し、各地域(都道府県)の女性だけのガンによる死亡率を調べてみました。

 

第1章 日本の女性だけのガン患者数

第1節  日本の女性だけのガンとアメリカの女性のガンの比較

  1950年〜1980年までの30年間を調べると、日本の女性のガンの順位は、1.年々減りつつある胃ガン、2.急速に増えつつある大腸・直腸ガン、3.急速に増えつつある肺ガン、4.急速に増えつつある.乳ガン、5. 急速に減りつつある子宮ガンと卵巣ガンです。アメリカの女性のガンの順位は、1.横ばいの乳ガン、2.少し減りつつある結腸・直腸ガン、3.急速に増えつつある肺ガン、4急速に減りつつある子宮ガン、5. 横ばいの卵巣ガンの順です。日米の女性だけのガンを。図―4(省略)に比較してみました。

図―4.日米の女性だけのガン(省略)

 日本では、女性に特有なガン(人口10万人当り)は、乳ガン(4.5万人)、子宮ガン(5.3万人)、卵巣ガン(2.0万人)です。アメリカの女性の乳ガン(25万人)、子宮ガン(9万人)、卵巣ガン(8万人)で、アメリカの女性の乳ガンは日本の女性の5.6倍、子宮ガンは1.7倍、卵巣ガンは4倍高いことがわかります。

 アメリカの女性だけのガンが多いのは喫煙などの生活習慣によってガンに罹りやすい体質、つまり、ガン免疫が低い体質になっていると考えられます。このことについては「第3編 女性だけのガンの予防」で述べます。

 

第2節     良性新生物(いぼやこぶ)

 私たちは健康な生物ですが、体の中に新らしい生物、つまり新生物と呼ばれる生物ができることがあります。新生物には良性新生物と悪性新生物があります。皮膚に突起した角質の「いぼ」と皮膚や粘膜から突出したポリープと呼ばれる卵球型の「こぶ」や「はれもの」は悪性なものと違い、無制限には大きくならず、他の組織や器官に転移しないので良性新生物とか良性腫瘍と呼ばれます。胃や大腸のポリープ、子宮の筋腫や線維筋腫も良性新生物です。子宮の良性腫瘍と年齢の関係を図―1(省略)に示します。

図−1.子宮の良性腫瘍と年齢(省略)

 図−1から、子宮筋腫などの良性腫瘍は20歳頃から増え始め、45〜54歳でもっとも多くなりますが、55歳以上では殆どいないことがわかります。子宮の良性腫瘍の総患者数は8万1千人で、女性の約0.1%(人口10万人当たり460人)が病院で治療を受けています。

 

第3節 悪性新生物

 ガン、がん、癌などと呼ばれる悪性新生物は、皮膚、脳、呼吸器、消化器、泌尿器、食道、のど、肺、肝臓、胃、骨などの全ての内臓内で増殖し、周囲の組織に浸潤して破壊し、周囲の組織に移って増殖(転移)する「こぶ」や腫れ物(腫瘍)で、全身のあらゆる組織にできます。その結果、全身の働きは止まり、死に至る恐ろしい病気です。

1.乳ガン:乳ガンの総患者数は11万4000人(女性の約0.2%)と推定されています。乳ガンは年齢とともに増えます。乳ガンと年齢の関係を図―2(省略)に示します。

図―2.乳ガンと年齢(省略)

 図―2から、乳ガンは25歳頃から急激に増え始め、45〜70歳頃にもっとも多く(人口10万人当たり約400人)なり、70歳以上になると減りますが、80歳以上でも30歳代の女性と同じくらい多い病気です。

2.子宮ガン:子宮頸ガン、子宮体ガン、子宮内膜ガンのどの子宮ガンの総患者数は5万人(女性の約0.08%)と推定されています。子宮ガンも年齢とともに増えます。子宮ガンと年齢の関係を図−3(省略)に示します。

図−3.子宮ガンと年齢(省略)

 図−3から、子宮ガンは20歳頃から増え始め、65−69歳で最も多く(175人/人口10万人)なります。85歳でも40才台と同程度(100人/人口10万人)に多い病気です。

3.卵巣ガン:卵巣ガンによって死亡する人(罹患率は報告されていません)は10〜20歳台から現われ、50歳の死亡率(人口10万人当り)は9.5人、70歳では15.1人、80歳でも21.6人と死亡率の高い病気です。

 

第2章 日本の都道府県の女性だけのガンによる死亡率

 日本の女性だけのガン患者数を調べてみました(平成11年(1999年):(財)厚生統計協会の調査)

 

第1節 女性だけのガンによる死亡率

 各都道府県の女性だけのガンによる死亡率を表1に示します。

表1.日本の女性のガンだけの死亡率(人口10万人当り)

     乳ガン   子宮ガン 卵巣ガン      小計
――――――――――――――――――――――――――――
北海道 15.8   8.6  7.3     31.7
青森  13.3   8.9  9.8     32.0
岩手  11.7   9.3  9.1     20.1
宮城  14.3   7.5  6.8     21.6
秋田  15.2   6.7  8.3     30.2
山形  13.2   8.7  5.9     27.8
福島  10.6   8.5  6.9     25.0
茨城  12.8   9.0  5.0     26.8
栃木  13.8   8.7  6.6     29.1
群馬  13.7   7.1  5.3     26.1
埼玉  12.7   6.6  6,2     25.5
千葉  13.8   7.4  7.0     28.2
東京  18.5   8.3  7.4     34.2
神奈川 14.5   6.5  6.6     26.6
新潟  12.4   6.2  6.6     25.2
富山  14.3   7.1  5.7     27.1
石川  16.3   7.4  5.7     29.4
福井  11.1  10.2  4.5     26.8
山梨  14.5   9.8  5.6     29.9
長野  12.4   7.2  8.1     27.7
岐阜  13.8   7.8  7.2     28.8
静岡  12.0   8.1  5.1     25.2
愛知  12.5   7.5  5.1     25.1
三重  14.1   7.9  5.5     27.5
滋賀  10.2   7.2  3.0     20.4
京都  16.5   7.7  7.3     31.5
大阪  15.0   8.0  6.4     29.4
兵庫  12.9   7.9  6.0     26.8
奈良  13.1  10.0  6.9     29.0
和歌山 11.7   9.9  4.6     26.3
鳥取  11.3   8.8  9.1     29.2
島根  13.6   8.6  7.8     30.0
岡山  10.6   7.2  7.0     24.8
広島  14.0   8.8  4.9     30.1
山口  14.3   8.8  7.3     30.4
徳島  12.0   9.0  5.8     26.8
香川   9.6   8.3  4.3     22.2
愛媛  16.8   9.0  6.9     31.7
高知   9.6   8.6  8.2     26.4
福岡  14.6   9.0  5.9     29.5
佐賀  13.1  10.3  5.6     29.0
長崎  11.6   7.9  5.3     24.8
熊本  12.6   7.7  6.1     26.4
大分  11.8  10.0  6.5     28.3
宮崎  11.3   9.2  5.3     25.8
鹿児島 11.3  10.1  4.4     26.0
沖縄   9.6   7.8  3.3     20.7
全国  13.9   6.6  3.3     23.8
――――――――――――――――――――――――――――

 

 表−1から、女性だけのガンによる死亡率が最も高い県と最も低い県は次の5県であることがわかりました。

乳ガン死亡率が最も高い5県:     最も低い5県:
1.東京(18.5)       1.沖縄(9.6)
2.京都(16.5)       2.高知(9.6)
3.石川(16.3)       3.香川(9.6)
4.北海道(15.8)      4.岡山(10.8)
5.大阪(15.0)       5.宮崎=鹿児島(11.3)
 
子宮ガンの死亡率が最も高い5県:   最も低い5県:
1.佐賀(10.3)       1.新潟(6.2)
2.福井(10.2)       2.神奈川(6.5)
3.鹿児島(10.1)      3.埼玉(6.6)
4.奈良(10.0)       4.富山(7.1)
5.大分(10.0)       5.長野(7.1)
 
卵巣ガンの死亡率の最も高い5県:   最も低い5県:
1.青森(9.8)        1.滋賀(3.0)
2.岩手(9.1)        2.沖縄(3.3)
3.鳥取(9.1)        3.香川(4.3)
4.高知(8.2)        4.鹿児島(4.4)
5.長野(8.1)        5.石川=福井(4.5)
 
これらのガン死亡率が最も高い5県:  最も低い5県:
1.東京(34.2)       1.滋賀(20.4)
2.青森(32.0)       2.沖縄(20.7)
3.愛媛(31.7)       3.香川(22.2)
4.北海道(31.7)      4.岡山(24.8)
5.愛媛(31.7)       5.長崎(24.8)

 

 全国平均の乳ガン死亡率は13.6、子宮ガン死亡率は6.6、卵巣ガン死亡率は3.3、女性だけのガンの死亡率は23.8です。

 乳ガン死亡率の最も低い沖縄県(9.6)、子宮ガン死亡率の最も低い新潟県(6.2)、卵巣ガン死亡率の最も低い滋賀県(3.0)、女性だけのガンの死亡率の最も低い滋賀県(20.4)より高い県(乳ガン:東京は沖縄県の1.9倍、子宮ガン:佐賀県(10.3)は新潟県(6.2)の1.7倍、卵巣ガン:青森県(9.8)は滋賀県(3.0)の3.2倍、これらのガン死亡率が最も高い東京(34.2)は滋賀県(20.4)の1.7倍です。これらの県の女性だけのガンに対する対策が求められます。

 

まとめ

1.子宮筋腫は良性腫瘍で、20歳頃から増え始め、50歳前後で最大になりますが、55歳以上ではほとんどいません。

2.日本の女性だけのガンはアメリカより低く、乳ガンは約1/6、子宮ガンは約1/2、卵巣ガンは約1/4です。

3.乳ガンの患者は11.4万人(女性の約0.2%)と推定されます。20歳頃に現われ始め、40歳前後で最も高く、85歳でも30歳台の女性と同じくらい高い病気です。

4.子宮ガンの患者は約5万人(女性の約0.08%)と推定されます。20歳頃に現われ始め、30歳前後から急速に増え、60歳後半で最も多く、85歳でも30歳台の女性と同じくらい多い病気です。

5.卵巣ガンの死亡率は、10〜20歳台から現われ、50歳で9.5人、70歳では15.1人、80歳でも21.6人と若い女性と同じくらい死亡率の高い病気です。

6.これらの結果を総合すると、女性だけのガンは20歳台から現れ、年齢とともに増え、80歳を超えても死亡率の高い病気であることがわかります。

7.乳ガン、子宮ガン、卵巣ガンなどの女性だけのガン対策の確立と普及が求められます。

(完)

(2008年7月)