[講演内容]

 

抗ガン剤治療の副作用とその抑制

鍵谷 勤

 

 

はじめに

 抗ガン剤を投与すると全身に回って、ガン組織だけでなく、健康な組織にも傷害を与えます。高々6グラムのガンを治療するために,60キログラム(1万倍)の健康な組織を傷つけているのです。このため、抗ガン剤治療においては、さまざまな副作用が発現して患者を苦しめています。抗ガン剤治療の副作用を抑制することは、新しい抗ガン剤を開発するくらい重要な課題です。

1.    抗ガン剤の作用メカニズムによる分類

 抗ガン剤には、シクロホスファミドなどのアルキル化剤、シスプラチンなどの白金錯体類、メトトレキセートなどの代謝拮抗剤、ドキソルビシンなどの抗ガン性抗生物質類、ビンクリスチンなどのアロカロイド類、アミホスチンなどのホルモン製剤類、免疫を活性化するBRM(生体応答修飾物質)類などがあります。

2.    抗ガン剤治療の副作用とその対策

 抗ガン剤治療の副作用は、口内炎,悪心、嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状の頻度が最も高い。

(1)消化器障害:

(ア)口内炎:植物アルカロイド、メトトレキセ−ト(MTX)、5−フルオロウラシル(5−FU)などの頻回投与や大量投与の場合に起こりやすい。対策:抗ガン剤によって発生するフリーラジカルによる口腔内粘膜の損傷が原因ですから、活性酸素消去剤が服用されます。

(イ)悪心・嘔吐:最も頻度が高く、即時型嘔吐と持続・遅延型嘔吐があります。対策:嘔吐中枢の刺激を和らげる神経伝達阻害剤のベンザミドやステロイド剤が用いられます。

(ウ)下痢:腸粘膜の障害が原因です。対策:ビスマス製剤やタンニン酸アルブミンなどを服用します。

(エ)便秘:神経毒性によるって腸管の運動抑制が原因です。対策:酸化マグネネシウムや植物繊維食品・大黄を服用します。

(オ)感染症:骨髄抑制による生体防御細胞の好中球(基準値:500/mm3)が100/mm3以下に下がると危険です。対策:硫酸カナマイシンや塩酸アミのサイクリンが投与されます。

(2−1)骨髄障害(白血球減少):最も早く現れる代表的な副作用です。末梢血液中の白血球数が400/mm3になると危険です。対策:G―SFが投与されます。

(2−2)骨髄障害(赤血球減少):ヘモグロビンが6g/dlに減少すると強い貧血症が起きます。対策:エリスロポイエチンが投与されます。

(2−3)骨髄障害(血小板減少):白血球が減少すると血小板(基準値:15万―40万/mm3)も減少することが多いです。対策:2万/mm3以下に減少すると、血小板が輸血されます。

(4)腎障害:血液中の尿素窒素(BUN)や血清クレアチニン値が低下した場合に起きます。対策:マンニトールやロイコポリンなどの利尿剤が投与されます。

(5)心筋障害:、心膜炎・心筋炎・不整脈などの急性心毒性や持続性頻繁・心機能の低下などの慢性心毒性です。対策:心電図測定、デキシラゾキシンなどのフリーラジカルの生成を抑制する心筋保護剤が使われます。

(6)肝障害:治療開始時および治療中に血液の生化学的検査を行って肝機能を調べます。対策:肝機能が低下した場合には直ちに治療を中止し、ステロイド薬を投与します。プレドニゾンなどによって肝不全を治療します。

(7)肺障害:肝質性肺炎、肺水腫、肺出血などです。対策:治療を中止し、ステロイド薬を投与します。

(8)神経障害:中枢神経障害と痙攣・麻痺・運動機能失調・知覚障害などの神経障害症状があります。対策:治療の中止・抗ガン剤の減量・治療を休止します。

(9)だるい(倦怠感):嘔吐・下痢・肝障害・腎障害が原因です。治療の翌日から現われ、数日中に消えます。対策:有効な対策はありません。

(10)内分泌障害:甲状線機能・副甲状線機能・膵内分泌機能抑制が現われます。対策:ステロイド製剤・ビタミンD製剤・カルシウム製剤が投与されます。

(11)皮膚障害:尋麻疹・痛痒症などが現われます。対策:抗ヘルペスやステロイド製剤が投与されます。

(12)脱毛:毛母細胞障害が強いと、1か月以内に脱毛します。対策:頭部冷却・育毛クリーム塗布などがありますが脱毛を防ぐことはできません。

(13)男性の性機能障害:原因は、精液量・精子濃度・精子運動の低下です。

対策:精子の冷凍保存、男性ホルモン(テストステロン)の補充がおこなわれます。

(14)女性の性機能障害:原因は、卵巣の卵細胞の破壊です。対策:女性ホルモン(エストロゲン)などの補充がおこなわれます。

(15)過敏症:アレルギー反応です。症状は、抗ガン剤点滴開始の数分後に起きる尋痲疹、呼吸困難、喉頭痙攣、血圧低下などの症状が現われます。対策ステロイド薬、気管支拡張薬、昇圧薬が投与されます。

3.抗ガン剤による二次発ガン

各種抗ガン剤による二次発ガンの種類を表―1に示します。

表―1.各種抗ガン剤による二次発ガンの種類

  抗ガン剤 二次発ガン
1.
メルフラン、シクロフォスファミド、チオテパ。 急性白血病
2.
クロランブシル 肺ガン
3.
メトトレキセート 皮膚ガン
4.
アザチオプリン 悪性リンパ腫
5.
スチルベストロール 膣ガン・子宮内膜ガン
6.
タモキシフェン(乳ガン再発予防約薬) 子宮体ガン
7.
ブスルファン  乳ガン
8.
シクロフォスファミド  膀胱ガン
9.
ブスルファン(慢性骨髄性白血病治療薬) 急性白血病
10.
クロランブシル 急性白血病
11.
その他の抗ガン剤 急性白血病

 これらの結果から、「抗ガン剤は総じて発ガン剤である」と言っても過言ではありません。まさに「抗ガン剤は諸刃の剣」です。抗ガン剤治療の数年〜十数年後にガンに罹らないためのガン予防法の確立が求められます。

4.ビタミン配糖体による抗ガン剤の副作用抑制研究

(1)基礎研究(2008年4月22日に受理されたNairとの共同研究の論文)。

 シスプラチンは、最も広く使われている抗ガン剤です。この抗ガン剤は、治療効果を示す量を投与すると、酸化的なフリーラジカルが発生して腎毒性などの多くの副作用を発現します。

 実験方法:シスプラチン(12mg/g)をマウスの腹腔に投与し、その1時間前あるいは24時間後または48時間後にビタミンCの配糖体(AsAG:250または500mg/kg)、またはビタミンEの配糖体(TMG:500mg/kg)を経口投与し、血清中の尿素とクレアチニン、腎臓組織内の脂肪の酸化物、抗酸化活性、ならびに組織病理学的知見を研究した。

 結果:マウスの腹腔にシスプラチンを投与すると、腎臓組織の構造変化と共に血清中の尿素(1.8倍)とクレアチニン(3.0倍)のレベルは急激に増大した。また、シスプラチンは脂質の酸化を促進(3.0倍)し、腎臓組織内のSODを1/2に低下させ、グルタチオン(GSH:0.52倍)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx:0.68倍)、スパーオキサイドデスムターゼ(SOD:0.52倍)、ならびにカタラーゼのレベルを0.72倍に減少させた。

 AsAG(500mg/kg)を経口投与すると、シスプラチンによって誘導される血清中の高いクレアチニン(1.74mg/dl)は1.43mg/dlに、尿素(51.76mg/dl)は35.15mg/dlに減少し、シスプラチンによる有害なSOD(5.66 U/mgprotein)の増大を防ぎ(10.58U/mg protein)、シスプラチンによって誘導される脂質の過酸化を防いだ。TMG(500mg/kgを経口投与するときも、シスプラチンによる脂質の過酸化は抑制された。

 結論:これらの結果は、AsAGやTMGは、シスプラチンによるマウスの腎機能障害を防ぐことを示した。この防護作用は、抗酸化状態を防止することによるものであり、ヒトの場合にも適用できると考えられる。

 訳者注:これまで、シスプラチンによる副作用がAsAGの経口投与によって抑制されることが臨床的に認められていた。この研究によって、副作用抑制のメカニズムが解明された。

(2)ビタミン配糖体による抗ガン剤治療の副作用抑制の臨床研究:

(ア)大分県立病院で、月3回のタキソール治療を受けていた56才の再発乳がん患者は吐き気・不眠・食欲不振に悩んでいた(02年6月)。彼女は、タキソール点滴の直後に50mgのビタミンE配糖体(TMG)カプセルを服用したところ、副作用は起こらなかった。TMGの直後投与は12月まで行い、副作用抑制効果が確かめられた。また、治療前の彼女の頭髪は全くありませんでしたが、治療中にTMGを服用すると、1ケ月後には頭髪が生え始め、4カ月後には元どうりになりました(写真省略)。

(イ)(独)京都医療センターで、月3回のタキソール・パラプラチン治療を受けていた31歳の子宮頸ガン患者は、03年1月―8月の間、点滴の直後に50mgのTMGカプセルを服用し、「吐き気・不眠・食欲不振」を感じなかった。また、頭髪の脱毛が抑制されました。

(ウ)京都府立医大病院で、月3回のタキソール治療を受けていた61才の乳ガン患者は「吐き気」に苦しんでいた(04年12月)。タキソール点滴の2時間前に10gのビタミンC配糖体(AsAG)を服用したところ、吐き気は起こらなかった(05年1月)。3月末までの10回の治療においても、同じようにAsAGを服用すると吐き気は起きませんでした。

次表は、患者さんにレポートしていただいている「生活の質(QOL)」の調査表です。

 

 

QOL調査表

氏名   

―――――――――――――――――――――――

治療日:( )年( )月( )日。 治療部位:(    )

0日
1日
2日
3日
4日
5日
6日
1.吐き気
( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )
2.だるさ
( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )
3.不眠
( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )
4.食欲減退
( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )
5.不便通
( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )
6.下痢
( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )
7.口内炎
( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )

備考:強烈:4。かなり:3。少し:2。ほんの少し:1。なし:0。

 


白血球数: 測定日:第( 0 )日。(   )。

血小板数: 測定日:第( 0 )日。(   )。


氏名:(         )。

放射線: (   )Gy。

抗がん剤:

1.名称(  )。投与量(mg)(   )。

2.名称(  )。投与量(mg)(   )。

3.名称(      )。投与量(mg)(   )。

 

 

5.抗酸化ミネラル含有酵母による抗ガン剤治療の副作用抑制の基礎研究

 亜鉛、マンガン、銅、セレンなどの抗酸化ミネラルを含有したサッカロマイセスセレビジエ酵母が抗ガン剤の毒性を抑制すことを発見しました。

 実験:一群10匹のマウスの腹腔に該酵母含有懸濁水(0.3ml)を注入し、半致死量(12mg/kg)、あるいは致死量(16mg/kg)のCDDPを腹腔に注入して、平均生存日数あるいは30日生存率を調べた。対照群には0.5%メチルセルローズ(0.3ml/匹)を腹腔に注入した。

実験結果: 

投与タイミング 
平均生存日数


対照群−1 CPA(600mg/kg)―――――
CPA+セレン(3%)酵母(750mg/kg)30分前
17
 
対照群−2 CPA(360mg/kg)―――――
53
CPA+セレン(3%)酵母(750mg/kg)30分前
100
 
30日生存率(%)


対照群−3 CDDP(12mg/kg)―――――
50
CDDP+亜鉛(10%)酵母(100mg/kg)30分前
88
 
対照群−4 CDDP(16mg/kg)―――――
CDDP+Mn(5%)酵母(100mg/kg)直後
17

 

 抗酸化ミネラル含有酵母は抗ガン剤の毒性を抑制し、特に亜鉛酵母と銅酵母の活性が高かった。活性酸素消去能(SOD)が高いほど抑制活性が高いことから、抗ガン剤の毒性はスーパーオキサイド(活性酸素)によると考えられました。

(2008年12月)