[研究論文]

ニトロトリアゾール化合物の
制ガン機能誘発とメカニズムの研究

京都大學名誉教授 鍵谷 勤


 ガンの放射線や抗ガン剤治療の効果を増強(増感)するサナゾールは治療時に1グラム以上の量が投与される。一方、微量のサナゾールを継続して投与すると、移植した腫瘍の増殖と肺転移を抑制する動物実験の結果が1996年に発表された(Sensitization Newsletter,Vol.3.No.2.3-6,1996)。

 ロシア科学アカデミイのコノバロバ女史グループはマウスに500万個のB16メラノーマ腫瘍細胞を移植し、28日後の腫瘍重量を測定した。この腫瘍は肺に転移するので、肺転移率と転移したマウスの肺に生じた腫瘍のコロニー(群体)も測定した。

 一例として、微量(0.1mg/kg)のサナゾールを投与し、投与時期と投与期間を変えた場合の腫瘍重量、肺転移率および肺腫瘍コロニー数(平均値)を次表に示す。

 
腫瘍重量(g)
肺転移率(%)
肺腫瘍コロニー数
無処理
5.2
100
13.8
サナゾール(0.1mg/kg)の投与系:
 
移植前10日間
3.6
100
11.0
移植後10間
3.7
75
12.3
移植前後20間
2.3
30
 2.0

 0.001〜10mg/kgのサナゾ−ルを投与した場合の数値を平均すると、サナゾールの抑制効果は次表のようにまとめられる。

 
腫瘍抑制率(%)
 肺転移抑制率(%)
肺腫瘍コロニー抑制率(%)
前投与
30
 0
21
後投与
25
13
70
前後投与
63
77
89

 腫瘍移植の前と後に10日の間、微量のサナゾールを毎日投与すると、腫瘍は63%、肺転移は77%、肺腫瘍コロニーは89%抑制された。

 この発表の2年後に、ナデジュダ女史グル−プはサナゾールによる制ガン機能誘発のメカニズムに関する研究を発表した(Sensitization Newsletter,Vol.5,No.1,1-5,1998)。

 彼女らは、無腫瘍マウスおよびB16メラノーマ腫瘍マウスに1mg/kgのサナゾールを10日間、毎日一回投与して、脾細胞のNK活性とマクロファージの活性などを調べた。結果の一例を次表に示す。

無腫瘍マウス:  
 
脾細胞のNK活性(%)
マクロファージの活性(%) 
無処置
10.4
42.5
サナゾール
42.2
92.2
 4.1
 2.2

結論−1:
 無腫瘍マウスに1mg/kgのサナゾールを10日間投与すると、NK細胞は4.1倍に、マクロファージの活性は2.2倍に増強された。この結果は、微量のサナゾールを継続服用することによって、健常人のガン免疫を高めて制ガン機能を誘発し、ガンの発症を予防できる可能性があることを意味している。

腫瘍マウス:  
 
脾細胞のNK活性(%)
マクロファージの活性(%) 
無処置
28  
 7.6
無腫瘍を無処置
38.9
48.4
腫瘍/無腫瘍
 1.4
 6.4
サナゾール前投与
46
13.5
サナゾール後投与
29
25.4
サナゾール前後投与
51(1.8倍)
45.0(5.9倍)

結論−2:
 腫瘍を移植すると脾細胞のNK活性は72%に、マクロファージの活性は8%(1/6.4)に低下した。1mg/kgのサナゾ−ルを腫瘍移植の前後に20日間投与すると、NK活性は1.8倍に、マクロファージ活性は5.9倍に増強され、免疫活性は無腫瘍マウスと同程度に上昇した。

 この結果は、微量のサナゾールを継続服用することによって、ガン免疫を高めて制ガン機能を誘発し、ガンの再発を予防できる可能性があることを意味している。

(2004年7月)