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ガンの治療増感と正常細胞防護増感のアポトーシス
―ガンの新しい治療法と予防法に向けてー

京都大學名誉教授 鍵谷 勤

 

 放射線治療はガン細胞に損傷を与えて増殖死を起こさせる治療法である。高線量の放射線などの激しい治療では、ガン細胞は障害を受けて徐徐に膨れ、終には内容物が流れ出て壊死(ネクローシス)する。周辺には白血球が集まり、赤く腫れるなどの炎症が起きる。43℃のハイパーサーミア(温熱)などの温和な治療では、ガン細胞が急速に縮小して断片化するアポトーシスが起きて自滅し、マクロファージ(大食細胞)に貪食されて消化される。

 通常の放射線治療や抗ガン剤治療でも増殖死のほかにアポトーシスも起きていると考えられている。放射線によって誘発されるアポトーシスについては胸腺リンパ腫細胞やL5178Yという白血病細胞が知られている。Aokiらは、低酸素条件下のL5178Y細胞の放射線アポトーシスがニトロイミダゾールによって増感されることを報告している(2002年)。Nairらは、マウスのサルコーマ腫瘍の放射線腺アポトーシスがニトロトリアゾ−ルによって増感されることを報告した(2003年12月)。固形ガンのアポトーシスはシスプラチンなどの抗ガン剤によっても誘発される。郭らはマイトマイシンC(MMC)によるマウスのS−180腫瘍のアポトーシスがニトロトリアゾ−ルによって3倍も増感されることを報告していた(1995年)。

 ニトロイミダゾールやニトロトリアゾ−ルなどのニトロアゾ−ルはガンの放射線感受性を高める薬剤である。これらによるガン細胞の増感効果はアポトーシスを促進するp53ガン抑制遺伝子の機能と同じ効果を示した。また、水溶性ビタミンEのトコフェロール配糖体(TMG)の抗酸化機能は正常細胞のアポトーシスを抑制するbcl−2遺伝子の機能と同じである。つまり、ニトロアゾールはp53遺伝子と同じくガン細胞のアポトーシスを促進し、TMGはbcl−2遺伝子と同じく正常細胞のアポトーシスを抑制する。

 筆者らは昔、放射線や抗ガン剤に対するガン細胞の感受性を高めるニトロトリアゾールを開発した(1986年)。ガン細胞の障害を一電子酸化能によって増感する薬剤である。また、フリーラジカルを不活性化するTMGが正常細胞の損傷を防護することを発見し(1996年)して研究を行ってきた。しかし、最近の研究によって、筆者らのガン治療増感のメカニズムがガン細胞のアポトーシス増感でもあることが明らかになってきた。

 過酷な治療によって腫瘍細胞を増殖死させる従来のガン治療法は、健康な細胞も損傷する副作用を伴う「双刃の剣」である。これに対して、アポトーシス療法はガン細胞のアポトーシスを誘導して自滅させる副作用を伴わない理想的な治療法のひとつである。アポトーシス療法は免疫療法とも異なる全く新しいガンの治療・予防法であって、再発の不安に怯える300万人のガン体験者のための最も優れたガンの予防法でもあると考えられる。

 ガン細胞のアポトシース誘導増感研究の今後の発展が期待される。

 

(2004年2月)